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アスタチンの大量生産でアルファ線核医学治療の早期社会実装へ! 核物理研究センターTATサイクロトロン棟が竣工
2024.2.29 Thu
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アスタチンの大量生産でアルファ線核医学治療の早期社会実装へ! 核物理研究センターTATサイクロトロン棟が竣工

アルファ線核医学治療は、がん細胞を破壊するための放射性核種のアルファ粒子を使用するがん治療法です。特に難治性のがんに対して有効であると期待されています。このたび大阪大学核物理研究センターは、アルファ線放出核種アスタチン-211の加速器による大量生産を目指し、経済産業省の支援を受けてTATサイクロトロン棟を建設しました。

この施設では、アルファ線核医学治療の社会実装を加速させるために、住友重機械工業(株)、東芝エネルギーシステムズ(株)、アルファフュージョン(株)と協力し、アスタチン-211の製造から抽出、精製、合成に至るまでの共同研究が行われます。

アルファ線核医学治療は、がん細胞に選択的に蓄積する標的剤とアルファ線放出核種を組み合わせることで、体内で直接がん細胞にアルファ線を照射し治療する新しい方法です。アルファ粒子は破壊力が高いものの、体内での進行距離が短く、これにより周囲の正常細胞への影響を最小限に抑えつつ、効率的にがん細胞を破壊できます。


半減期7.2時間のアルファ線放出核種であるアスタチン-211を用いたアルファ線核医学治療が近年注目を集めています。これは、原料のアスタチン-211が加速器で製造可能であり、日本の製薬企業が強みとする低分子や中分子に導入可能であるためです。加えて、大阪大学で世界に先駆けて実施されているアスタチン-211を用いた薬剤の医師主導治験が、この分野の進展における日本のリーダーシップを示しています。

難治性進行がんへの新治療法であるアルファ線核医学治療は、外来での治療が可能であり、患者のQOLを顕著に向上させることができるため、国内外で医療イノベーションを促すと期待されています。アルファ線核医学治療の開発と実施には、放射性核種の製造、分離精製、医薬品化、コンパニオン診断や療法など、広範な科学技術が必要です。そのため、社会経済への影響は大きく、関連領域からの知的財産創出と共に、国際競争力を持つ新たな医療産業の基盤を築く可能性があります。

産学官連携で推進されるこのプロジェクトは、TATサイクロトロン棟の設置地で製造されたアスタチンを用いて薬剤開発と治験を実施し、西日本を中心としたバリューチェーンを構築することを目指しています。加速器を利用した製造から抽出、精製、合成に至るまで、様々な業界の協力が求められるアルファ線核医学治療を実証し、新たな産業の創出を目指します。

大阪大学核物理研究センターのウェブサイトはこちら

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